組曲「今吾誦 Images sans nom」
>>STORY<<
一度きりの音を、消えてしまわぬように。
若年性アルツハイマー病と診断され、闘病7年目に突入した元音楽教師。
心からの音楽を届けたいともがき続けるも伸し掛かる障害は重く、かつてはリハビリとして続けていたピアノにも触れなくなっていた。
しかし、ある日を境に即興演奏が噴き出す。
それはクラウドファンディングを通じて届く「応援するよ」「聴いているよ」という声への驚きと戸惑い、そして言葉にならない想いであった。
日ごとに心開き、語り、対話へと変容していく演奏を3週間にわたり採譜。
その急激な変化の軌跡は、また奇跡でもある。
>>NOTES<<
増永 透(RUBE YOROZU)。
もと音楽教師、オーボエ奏者。ピアノで即興的に伴奏付けをしながらの歌唱指導を得意としていた。若年性アルツハイマー病による「失行」「失語」「記憶喪失」を50代前半より徐々に発症。運動系の破壊により、多大な努力にもかかわらず、次第に手の自由がきかなくなっていった。以来、反乱を起こす自身の「手」に恐怖感をつのらせて鍵盤に触れることができなくなり3年が経過した。
Images sans nom(名前のない幻燈)。それは、春が近づくある日のこと、差し込む夕日に照らされた鍵盤に誘われるように手をおいたところから始まった。意味はない。突如として溢れ出す即興演奏。失語により言葉を失った彼が3年ぶりに発したもう一つの言葉だった。
若年性アルツハイマー病の父の手から突然溢れ出した即興演奏を、息子である弦が採譜・演奏。並ならぬその工程の原動力となり続けたのは他でもない「父の見ている世界が知りたい」という想いであった。
失われていく脳機能のゆえに行きつく先がむごたらしい「死」であるアルツハイマー病との闘病の日々の中で、患者本人が見ている世界とはどのようなものか。この音楽は、我々の普段使っている言語以上の饒舌さをもって私たちに語りかけてくる。
なくなっていった言葉、こぼれ落ちたつぶやき、記憶に残る言葉たちをあつめた「ぽえむ」、曲に添えました。
>>CREDITS<<
原案(即興演奏) 増永 透
採譜/再解釈 増永 弦
ぽえむ『ないしょでけんばんにさわったあの日から~ぴあのがぼくにおしえてくれたこと~』 増永 瑞江
Recorded: June 21 at YOROZU KUTSUKAKE
Computer Programming & Mix: Gen Masunaga
Art Direction & Design: Mizue & Gen Masunaga
Illustration: Mizue Masunaga
Photos: Gen Masunaga